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6. 環境模擬試験法に関する調査

 

小型及び中型試験片を用いた腐食疲労試験により、バラストタンク内の環境因子の個々の影響について把握することができたが、今後は、これらの各種要因を組み合わせ、実際のバラストタンク内の環境を模擬した疲労試験を行うことが望まれる。
バラストタンクの腐食疲労過程は、塗膜の劣化・き裂発生に続く鋼材の腐食・き裂発生・き裂伝播と考えることができる。そこで、バラストタンク内の環境について文献調査を行い、塗膜劣化及び鋼材の腐食に及ぼす影響度の大きい環境因子を次のように明らかにした。

 

6.1 塗膜劣化に大きい影響を及ぼす環境因子
(1)海水、酸素などの腐食性物質の浸透に影響する温度の高低、勾配の影響が最も大きい。2.5塗装材の温度影響の疲労試験でも温度が高いほど寿命が低下する結果が得られている。
(2)空倉時のように温度変化の大きい場合や乾湿が繰り返される場合には塗膜劣化が促進されることからバラスト漲水率、漲排水周期も塗膜劣化に影響を及ぼす。

 

6.2 鋼材の腐食に大きい影響を及ぼす環境因子
(1)海水による炭素鋼の腐食は鋼表面への酸素の拡散に律速されるために、溶存酸素と温度が最も大きい影響を及ぼす。
(2)鋼表面に薄い水膜が形成されている場合には、大気中の酸素をたやすく供給できるため腐食量が大きい。すなわち、海水に浸食されているよりも水滴が付着するような状態の方が厳しい腐食環境になる。したがって、鋼材の腐食に関してもバラスト漲水率、漲排水周期が大きい影響を及ぼす。
(3)電気防食や流速も腐食速度に及ぼす影響が大きい。2.8電防の影響を考慮した疲労試験でも電気防食によって寿命が大きく改善された結果が得られている。

 

6.3 環境模擬試験に取り上げられるべき環境因子
以上より環境模擬試験の環境因子として水質(溶存酸素濃度)、温度(高低)、バラスト漲水率、漲排水周期および電気防食を取り上げるべきであるという結論を得た。
しかし、これらの環境を模擬できたとしても、腐食疲労試験では長期の試験期間を必要とし実際的でないため、腐食を加速する必要が生じる。腐食を加速する方法として、試験片を50℃の人工海水中の6時間おきの乾湿交番にさらす試験が塗膜の耐久性確認のために使われているが、実船との比較から、時間にして15倍程度促進されることが確認されている。この試験では塗膜耐久性の確認を目的としていることから、応力を作用させていないが、実際のバラストタンクでは変動応力が作用している。したがって、腐食の加速に応じて作用応力の繰り返し数を増加させる技術の開発が腐食環境模擬試験法確立の重要な課題である。

 

 

 

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